骨髄バンク支援

  • 走り続けて、骨髄バンク支援!
2016年11月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30      

« 君は「さなぎの食堂」を知ってるか | トップページ | カールじいさんは『戦場でワルツを』踊らない »

2009年12月15日 (火)

セバスチャン・サルガドの「アフリカ」

 セバスチャン・サルガドは異色の写真家である。
 サンパウロ大学で経済学修士号を取った後、パリ大学で農業経済学博士の課程を修了している。本来、彼はEconomistなのである。そんな彼が、なぜPhotographerとして国際的な評価を得ることになったのであろうか。

 偶然、「すごく良かった」と同じタイミングで別の知人からサルガドの写真展のことを聞いた。すでに会期終了間近だったのだが、なんとか妻と予定を合わせ、最終日にすべり込むことができた。せこい話だが、チケットショップで300円と割安になった入場券を手に入れることができたこともありがたさを増幅させる。
 昔、勢い余って一眼レフを買った手前、これまで東京都写真美術館には結構通っていた。毎年開かれる「世界報道写真展」も何度か観ているので、サルガドの写真を間違いなく目にしているはずだ。が、こうして“サルガド”を意識して観ることはなかった。

 入り口にあるパネルに書かれた主催者やキュレーターの「あいさつ」には、かつてアフリカが「暗黒の大陸」と呼ばれ、現在においても紛争が絶えず、飢餓や貧困に苦しめられている、とある。かたや、多様な生物がおり、豊かな自然が圧倒的な景観をもたらし、そこ住む人たちの未来が示されているともある。つまり、負の面だけではなく、アフリカの豊かさと可能性がこの展示にはある、と。

 たしかに、サルガドの写真はモノクロでありながら“カラフル”である。それは、リアリティのあるサルガドの写真が色彩豊かなアフリカを見事に彷彿させる、といったありがちな賛辞の類ではない。アフリカに住まう彼らが内面に抱える複雑性をもまざまざと写真の中に映し出している、からなのである。もしサルガドの写真に訴えるものがあるというのなら、今のアフリカがもつ複雑性をそのまま表現できたからだと言える。飢餓とエイズと貧困と、資源と自然とワールドカップが同居する、そんな複雑性を直截間接に描き出している。

 写真展としては、未来への可能性という「明るさ」で「暗黒の大陸」と呼ばれたアフリカの暗さを吹き飛ばしたいという趣旨があったのかもしれない。しかし、楽観的な明るさよりも、むしろ私は写真から滲む愁いのほうを(やはり)強く感じ取ってしまった。
 サルガドは以前、「これらの写真を見た人が、ただ哀れみだけを感じたとしたら、それは自分の写真が間違っている」と明言している。その言に触れると、どちらかといえば私の鑑賞は彼の意図に反していたのかもしれない。それでも、交戦地帯にいる時も、難民を乗せたボートの上でも、マリやスーダンの難民キャンプでも、無邪気に乳房へしゃぶりつく赤児のありようをいくつも見せられると、その矛盾にやるせなくなってくる。
 アフリカはいつの日か、自らが孕み持つ複雑性を一点の曇りもない健やかなものへと昇華させることができるのだろうか…。赤児たちの乳房への執着が、新たな力となっていってほしいと切に願う。

 サルガドは、苛酷な労働現場を写し撮り、労働と人間の生き様を捉えた「WORKERS(労働者たち)」、生まれた土地を離れて暮らす人々へ光をあてた「MIGRATION(移民たち)」といったプロジェクトに続き、今、「GENESIS(起源)」というテーマのプロジェクトにとりかかっている(2012年完結予定)。一見、方向転換とも思える今のテーマは、政治や紛争や医療などの現代的な問題を根源的にさかのぼると、命、自然につながり、首尾一貫したものだという。生きとし生けるもののすべてのルーツを辿り、関係性を再考する「GENESIS(起源)」は、彼のキャリアの集大成にきっとなるにちがいない。

 EconomistからPhotographerへと転身したサルガドは、「WORKERS」と「MIGRATION」と「GENESIS」が彼の中で確乎としてつながっているように、その最終章でEconomistでありながらPhotographerであることの意味を私たちに教えてくれるだろう。写真というフィクションに、現実社会が孕む矛盾の解きほぐし方を添えることによって。
 赤児への彼のまなざしは、そのひとつのヒントだと自分は思っている。そう勝手に考えれば、まんざら私の見方も間違っていなかったのだ、、、と正当化することにしておこう。
Img_0435


【参考】
◆写真展 セバスチャン・サルガド「AFRICA〜生きとし生けるものの未来へ」
 http://www.syabi.com/topics/t_sarugado.html
 注:すでに写真展は終了しております。

・『セバスチャン・サルガド アフリカ』展図録
・『DAYS JAPAN』11月号 pp.28-43 「帰ってきたサルガド」

« 君は「さなぎの食堂」を知ってるか | トップページ | カールじいさんは『戦場でワルツを』踊らない »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

サルガド、いいっすよね~
しかも300円の
びっくりプライスw(゚o゚)w。

いい写真展見に行きたいなあ。

石川さんもサルガド見にいかれたんですね。私はもう少し前に行きました。

おっしゃる通り見ててやるせなくなってくる事はたくさんありましたが、自然は変わらず底にあるし、生き物も代わらず活きていくし、人も哀しくてもつらくても生きて、生きて、生き延びていく、そんなものすごいエネルギーを感じました、私は。

サルガド展に私も行きたかったです。
NHKの新日曜美術館でやっていたので、
ぜひ、見たいと思ったのです。残念ながら、
「上京」したらもう終わっているという
「状況」でしたが、渋谷区中央図書館で
彼の作品集が置いてあったので、見ました。
労働する人間の姿でしたが、それでいて
芸術作品のようなみごとなものでした。
たぶん、このふたつは矛盾するのではないの
だろうと思います。
一緒に旅したり生活したりしながら撮るらしい
ですが、奇跡の瞬間のような気がします。
奇跡も実は日常的なのかも知れないと思わず
思わせる力があるように思います。

目黒のあの施設もいいですね。東京はいい
場所がいっぱいありますね。
奇跡の町だと思います。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/549757/47032792

この記事へのトラックバック一覧です: セバスチャン・サルガドの「アフリカ」:

« 君は「さなぎの食堂」を知ってるか | トップページ | カールじいさんは『戦場でワルツを』踊らない »