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2010年9月18日 (土)

22年前の53連勝

 みんながジャイアンツの野球帽をかぶる中、私はタイガースの帽子をかぶっていた。掛布の大ファンだったということもあるが、誰もが好きな「一番」に位置しているものに与することが、子ども心にとても嫌だったのだ。ゴレンジャーであれば、真ん中を陣取るアカレンジャーではなく、アオレンジャーが好きだったと言っていたし、ガッチャマンであればコンドルのジョーが好きだと言っていた。本当はそんなに好きではなかったのだが。だから、ただ単に、出席番号が幼稚園から中学校までずーっと2番だったという愛着から、虚勢を張っていただけかもしれない。

 でも、大相撲だけは例外だった。誰よりも強かった昭和最後の大横綱、千代の富士貢が大好きだった。小兵でありながら、右手で相手の頭を押さえつけ、かなり強引に左からの上手投げで土俵に叩き付けたり(「投げる」ではなく、まさに「叩き付ける」の表現の方がふさわしい)、必要以上に派手に吊り上げたりする、あの相撲スタイルが痛快だった。
 彼は紛れもない「一番」ではあったが、体格差をはねのけて勝ちを重ねる姿が、2番好きの私の信条とシンパサイズするものだったのかもしれない。

 その千代の富士が打ち立てた53連勝という記録が、今日、破られようとしている。九月場所六日目、横綱・白鵬は琴奨菊をあっけなくはたき込みで敗り、とうとう千代の富士に並んでしまった。今日の取り組みに勝てば、双葉山に次ぐ、単独2位の連勝記録54(但し、昭和に入ってからに限る)がカウントされることになる。
 しかし、今の大相撲に対しても、白鵬に対しても、一向にワクワクしてこない。子どもの頃、天敵・隆の里と優勝をかけての一戦ともなれば、両者が土俵に上がる前から心臓がバクバク緊張し、「どうか千代の富士を勝たせてあげてください」と神様に祈ってテレビを観ていたはずなのに、あの時のワクワクな昂揚感はまったくない。
 当然、子どもの頃のスポーツ観戦と同じ心情で見られるはずはない。昨今の相撲界の不祥事続きにうんざりしている部分もあろう。しかし、一番の理由は、過去が美化されてしまっているという心象にあるのかもしれない。

 記憶というのはかなりあやしく、且つもろい。圧倒的な量の記憶は消されていくものの、逆に選り分けられて残された記憶は良いものであれ、悪いものであれ、どんどんと増幅されていく。テレビにかぶりついて大相撲を観ていたあれほどの昂揚感はもう二度と味わえないものなのかもしれないし、二度と味わえないような高みに記憶を移行させただけなのかもしれない。
 いずれにせよ、あれほどドキドキしていたというクオリアは、私にとって紛れもない「事実」なのである。

 昨晩は連休前で気持ちに余裕があったので、録りためていた番組をDVDで見ることにした。以前、ブログでも取り上げた『爆問学問』で、法心理学者の高木光太郎教授(青山学院大学)を紹介しており、時宜よく、記憶がいかに曖昧かということを取り上げていた。彼は、「足利事件」の菅谷さんが冤罪である可能性を示唆していた人である。

 彼の話の中で、非常に興味深い話があった。強姦にあったオーストラリアの女性の例である。
 彼女は、犯人には逃げられるのだが、被害を受けた後、テレビを観ていて「映っているこの人が犯人だ」と確信し、警察に通報する。そのテレビに映っていた人(心理学者だった)は逮捕されるが、アリバイがあることが分かり、すぐに釈放された。というのも、彼女がレイプされていた時、彼はテレビに出演していたのである。彼女はレイプされている最中、目に入ったテレビ画面に映っていたその心理学者を、記憶のどこかで「犯人」に仕立て上げてしまっていたのである。高木氏によれば、記憶は無意識に転化することがあるのだという。

 高木氏は「記憶はワインのようなもの」だと言っていた。ワインそのものはワインであることに変わりはないのだが、年を経るにつれ、味はどんどんと変容していく。記憶という「事実」も時が経つにつれ、別の「事実」へと、しかもあらかた自分がいいようにへと変えられていく。多くは無意識的に。
 それでも、結果として、自分にとって“いい記憶”で埋め尽くされていくのであれば、いいではないか。人はそうして、我が人生をますます豊かなものへと、無意識的にではあるが、懸命にしていっているのだろうから。(無論、それが冤罪を引き起こすような致命的なものであってはいけないが)

 千代の富士が勝つことを信じてテレビの前にいた石川少年の昂揚感は、これからもう味わうことができないだろう。ただし、それは、私の曖昧な記憶の箱の中で、ますます増幅され、その時以上のクオリアとなり、ずっと残っていくに違いない。

【参考】
・千代の富士 53連勝ダイジェスト http://www.youtube.com/watch?v=KYO5i-IWDKk
・NHK『爆問学問』6月11日放送分 「記憶に吠えろ」
 http://www.nhk.or.jp/bakumon/previous/20100601.html

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コメント

そうですか。千代の富士が好きだったんですね。

私は大鵬・柏戸(いや~、歳がばれますかね)

記憶の話も面白かったです。番組も見てました。

唐突ですが、

『ぜーんぶ わすれた』ベップ ヒロミ さんこう社 という絵本。

おすすめします。(図書館にあります)

(私自身は、この絵本にはけっこう批判的なんですけど、おススメします)

ふと、石川さんの感想を聞いてみたくなりました。

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