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2012年3月30日 (金)

別れの季節

 偶然とはよくあるものだから、言葉の矛盾を感じざるを得ない。
 昨日の朝、先日卒業したばかりのゼミ生に、しばらくは会えないだろうと思っていたのに、雑踏の池袋駅でバッタリと会った。どちらも出勤中で遅刻しないようにと忙しなく歩いていたので、数秒ずれていたら気づかなかっただろうに。偶然は必然にも感じる。
 一言二言交わすだけで10秒とも話さない時間ではあったが、別れの季節にやんわりとなる時間となった。

 幸い、仕事には間に合った。
今年度の事業の総括をするため、外部講師として関わった私から客観的に評価してほしいという会議だった。私主導でコメントするのだから、私さえ配慮すれば、そんなに延長となることはない。だから、終わるのも予定通りの時間だった。結果、ここで昼食にすべきかどうか迷うことになる。

 ただ今、11時20分。

 以前、その事業の担当者であるT氏に「ここらへんでおいしいランチの食べられるとこ、紹介してもらえません?」と聞き出し、おススメの2、3店を紹介してもらったことがある。すでに1件は経験済みで(うちがとっている無農薬野菜などを宅配する会社直営の和食屋さんだった)、次に行く時はその向かいにある鉄板焼屋さんに行ってみようとの心づもりはあった。
 でも、おそらくランチは11時半からであろう。効率よくスケジュールをこなすなら、次の用事のある場所に移動してからランチにしたほうが賢明だ。それでもなんとなく足が向かったので、11時開店なんてこともあるのかな、と淡い期待をどこかで持っていたのだろう。

 案の定、看板は出ていたものの、そこには「ランチ11:30〜」とある。「やはりそうか」と心中で呟きつつも、それでも自分のような客がいることを見越して、もう店を開けているかもしれないと、さらに階段を上り、店頭まで行った。

 「諸般の事情により本日3月29日をもって閉店とさせていただきます」

Img_2910

 半ば別の店に頭は浮気し始めていただのが、ここの店でランチを食べることにした。
 前にも初めて入った店がたまたま閉店当日だったことがある。会計の際、「感謝の気持ちです」と一見さんの私にもおまけの手作りお菓子をつけてくれた。そんなことをふと思い出したが、別におまけを期待して、この店に決めたのではない。閉店当日のお店に出くわすことなど、そうそうあるものではない。平々凡々な日常の一コマに過ぎないただのランチに意味がつき、自分まで特別な気分にさせてくれるのだから、あえて別の店に行く必要はない。それがめいでたい開店の日であろうと、閉店の日であろうと、“記念日”に居合わせる昂揚感というのがあるものだ。

 10分間、むだに商店街をぶらぶらし、気を新たにして店に入る。どうやら今日最初の客のようである。閉店の日の最初の客というのは、つまり、向こうにとっても特別な存在のはずだ。もしかしたら、店員さんは私が店に入るのを目頭を熱くして見ているかもしれない。考え過ぎだとしても、そんなドラマを描きながらランチをとらねばなるまい。今日、この店でランチをとるというのはそういうことなのだ。

 カウンターの席に案内されると、目の前の鉄板がまぶしいほどにピカピカに磨かれている。もちろん開店したばかりだからということもあるのだろうが、むしろ手入れのよさだと思われる。
 出てきた店主らしき人は、私より若く見えた。おそらく、この街の住人たちにとっておきに美味しい鉄板焼きをごちそうしようと野心満々でオープンさせたにちがいない。非常に柔和そうな彼の表情が、今は諦めがついたようなやるせないものにも見える。

 作業の邪魔にならないよう、頃合いを見て、「今日で閉店なんですね」と声をかけてみた。

「そうなんですよ。最近、やっぱり厳しいですね。
夜のお客さんがまったく入らなくなってきてまして。商店街の他の店も閉じるところがあって、回転が早くなってますね。…」
 
 余計なお世話だが、他にも支店があるかと聞けば「ない」というので、「この後どうされるんですか?」とも聞いてみた。

「どうしましょうかねぇ。少しゆっくり考えてみます」

 店内がランチ客で賑々しくなってきたこともあり、それ以上、店主と会話するのは控えた。
 店を出る際、「がんばってくださいね」と小声で言うと、にっこりと微笑みながら会釈をしてくれた。どんな思いでいるのか、まるで察することはできないが、ほんのちょっと淋しい気分になった。

 別れの季節はどうしても感傷的になる。ただ、これが4月1日になった途端、不思議なくらいに世の空気は一変する。いつまでもメソメソしていないようにと、先人が暦を作ってくれたのだとすれば、素直にその恩恵にあやかりたい。きっとあの店主も花やぐ季節にその恩恵にあやかるだろうと思っている。

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コメント

なんか、短編小説みたいでしたね。

このあと、
冒頭のゼミ生とこの鉄板焼きの主が
なんか関係があって。。。みたいな
展開になるのかな?

森井さん、それは面白い展開ですね。私のブログは当然事実に基づいていますが、短編小説用の新たなブログを立ち上げるのもいいかもしれませんね(笑)。
でも、「事実は小説より奇なり」 
あの後、あのゼミ生がその店主と出会って、結婚したりして。そしたら、独断でスピーチやっちゃおうかな〜(笑)。

「事実に基づいて」はいるが、
すべて人の世界のもろもろは「虚」
を含んでいるという気がよくします。
実部と虚部を併せ持つ「複素数」と
いう感じでしょうか。

偶然と必然も、すべてを偶然と見ても、
すべてを必然と見ても、どちらも成り
立ちそうに思いますが、「偶然」と「必然」
のどちらにも「必要性」を感じながら、
たいていの人は生きている感じがします。


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